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東京地方裁判所 平成5年(ワ)10610号 判決 1994年8月08日

原告

山崎順こと相塗

右訴訟代理人弁護士

小林賢治

被告

大東設備工業株式会社

右代表者代表取締役

柴田定雄

右訴訟代理人弁護士

松崎勝一

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告との間に雇用契約関係が存在することを確認する。

2  被告は、原告に対し、平成五年五月一日以降本件判決確定に至るまで毎月末日限り金一八万五九〇〇円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右2につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社は肩書住所地において建築物、建築設備及び外構施設の修繕、保守、維持管理及び清掃業務、建築工事、管工事及び電気工事の請負、設計並びに施工管理その他の業務を営む株式会社であり、原告(大正一一年三月一三日生まれ)は二級ボイラー技士の資格を有する者である。

2  被告会社は、昭和五九年一二月二一日、原告のとの間で、原告をボイラーマンとして固定給月額一四万五〇〇〇円(その他諸手当加算)の約定で期間の定めなく雇用する旨の契約を締結した。同契約においては、原告がボイラーマンとしての資格を有し、かつ、健康で事故等のない限り、年齢に制限なく雇用を継続する旨の合意がなされたものであり、同契約は、終身的契約である。

右給与は、平成五年三月当時には月額一八万五九〇〇円となった。

3  ところが、被告会社は、平成五年三月一二日、原告に対し、原告を解雇する旨の意思表示をし、以後、原告との雇用契約関係の存在を争っている。

4  被告会社は、原告と同年輩又は原告よりも年長の者の雇用を継続しているにもかかわらず、かつ、原告が外国人であることを理由として、右解雇をなしたものである。したがって、右解雇は、原告に対する差別的取扱いであり、労働基準法三条に違反し、無効である。

5  よって、原告は、被告会社との間で、雇用契約関係が存在することの確認を求めるとともに、被告会社に対し、平成五年五月一日以降本件判決確定に至るまで毎月末日限り金一八万五九〇〇円の給与の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、前段の事実及び原告の生年月日は認めるが、その余の事実は知らない。

2  同2のうち、被告会社が昭和五九年一二月二一日原告との間で、固定給月額一四万五〇〇〇円(その他諸手当加算)の約定で原告を雇用する旨の契約を締結したことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告会社は、雇用期間を昭和五九年一二月二一日から一年間と定めて原告を採用し(当初の二か月間は嘱託)、その後、更新により雇用を継続したものである。

3  同3のうち、被告会社が原告との雇用契約関係を争っていることは認めるが、その余の事実は否認する。

被告会社は原告を解雇したものではなく、原告は、後記抗弁のとおり、雇用期間満了により退職となったものである。

4  同4のうち、被告会社において七〇歳を超えても雇用を継続している者がいることは認めるが、その主張は争う。

右の者らは、一級ボイラー技士などであり、被告会社は特に必要な者として仕事をしてもらっているのであり、何ら不当ではない。

三  抗弁

1  被告会社の就業規則では、社員の定年は満六〇歳と定めているが、勤務成績が良好な者については一年ごとの再雇用により満七〇歳まで(特に指定した者は除く。)準社員とする制度をとっている。

2  原告は七〇歳に達した平成四年三月一三日に再雇用期間満了により退職となるはずであったが、被告会社は、恩情により特に一年間だけ期間を延長することにした。その結果、原告は平成五年三月一二日右期間満了により退職となる予定であったが、被告会社は、さらに同年四月三〇日まで期間を延長したものである。なお、原告の同年三月分、四月分の給与は既に支払済みである。

3  このように、原告は、右期間満了により退職となったものである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は知らない。

原告は、新規採用された時点で既に定年の六〇歳を超えていたものであって、原告には被告会社のいう就業規則の再雇用規定の適用はない。しかも、被告会社は、前記のとおり、原告と同年輩又は原告よりも年長の者を継続雇用しているのであって、右規定を守っていない。

2  同2のうち、原告の平成五年三月分、四月分の給与が支給済みであることは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

3  同3の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する(略)。

理由

一  当事者について

請求原因1のうち、前段の事実及び原告の生年月日は当事者間に争いがなく、その余の事実は証拠(<証拠略>)により認められる。

二  雇用契約の成立について

1  被告会社が昭和五九年一二月二一日原告のとの間で、固定給月額一四万五〇〇〇円(その他諸手当加算)の約定で原告を雇用する旨の契約を締結したことは当事者間に争いがなく、この事実と、証拠(<証拠・人証略>)によると、被告会社は、右同日、原告との間で、雇用期間を同日から昭和六〇年一二月二〇日までの間、給与(基本給、特別手当、技術手当、機械手当・当月二〇日締切り、当月二五日払い)を月額一四万五〇〇〇円、職種をビル管理保守係、就業場所を郵政省北部局管理所、勤務時間を午前八時三〇分から午後六時一五分までとし、そのほかは、法令及び就業規則の定めるところによるとの約定で雇用契約を締結したこと、その後、同契約は黙示の意思表示により更新され、継続雇用となったことが認められる。

原告は、(証拠略)の成立を否認しているが、(証拠略)の当事者欄の原告の氏名の筆跡は、原告本人尋問の結果により原告が自署したことが認められる履歴書(<証拠略>)の原告の氏名の筆跡や原告が本件訴訟の本人尋問の際に署名した宣誓書の原告の氏名の筆跡と対照すると、それらと同一であると認められるので、(証拠略)は真成(ママ)に成立したものと推定することができる。

2  原告は、昭和五九年一二月の前記雇用契約の締結に当たっては、被告会社との間で、同契約の終了時期について年齢上の制限がない旨を合意したと主張しており、この主張に副う原告の供述が存在するが、この供述は、労働契約書(<証拠略>)の記載、別紙1(略)記載の就業規則(<証拠略>)の規定や(人証略)に照らして採用することができず、ほかに右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

三  雇用契約の終了について

1  被告会社が原告との雇用契約関係を争っていること、被告会社において七〇歳を超えても雇用を継続している者がいること、原告の平成五年三月分、四月分の給与が支給済みであること、以上のことは当事者間に争いがない。

2  被告会社は、雇用期間満了により原告との雇用契約が終了した旨を主張しているので、この点について判断する。証拠(<証拠・人証略>)によると、次の事実が認められる。

(一)  被告会社は、就業規則において別紙1記載のとおり定めており、昭和六二年五月一日、同規則第四八条2号に基づき、別紙2(略)記載のとおりの内容の「定年に達した社員の再雇用について」という細則を定めた。しかし、従業員の中でも管理所長や電気主任技術者など特殊な技能を有する者で日常の業務に特に必要とされる者については満七〇歳を超えても雇用する必要があるため、被告会社は、その後の平成三年一一月二二日、右規定のうち、2の但し書を「但し、特に指定した者以外は、満七〇歳に達する日までとする。」と改正した。被告会社の従業員で右年齢を超えて勤務している者は、そのような者であり、原告とは事情が異なる。

(二)  原告は、平成四年三月一三日、満七〇歳となったので、就業規則の定めにより雇用期間満了により退職となるはずであったが、被告会社は、原告との合意により特に向後一年間限りその期間を延長した。さらに、被告会社は、右一年後の平成五年三月一二日、同年四月三〇日までその満了期間を猶予した。

3  右事実によると、原告と被告会社との間の雇用契約は、平成五年四月三〇日の経過をもって期間満了により終了したものというべきであるから、原告の請求は排斥を免れない。

原告は、解雇された旨を主張しているが、これを認めるに足りる証拠はない。また、原告は、新規採用の時点で既に六〇歳を超えていたから、原告には就業規則に定める再雇用の規定の適用はない旨を主張しているが、本件全証拠を検討しても、そのように解すべき根拠は見当たらないばかりか、かえって、原告と被告会社間の雇用契約では、前記のとおり、明示された雇用条件のほかは法令及び就業規則の定めるところによるものとされたのであるから、原告の主張は理由がない。

四  結論

以上の次第で、原告の本件請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小佐田潔)

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